【家具の読み物】
お茶の時間が、家具の形を変えた。――ティルトトップテーブルが生まれた理由
アンティーク家具を見ていると、「なぜこんな仕組みになっているんだろう?」と思う家具があります。
ティルトトップテーブルも、そのひとつです。
天板を持ち上げると、水平だった天板がそのまま立ち上がる。
一見すると少し不思議な構造ですが、実はこの仕組みには、18世紀のイギリスで広がったある習慣が深く関係しています。
それが、紅茶です。
紅茶が、家具を変えた
18世紀のイギリスでは、紅茶が急速に普及していきました。
やがて紅茶は単なる飲み物ではなくなります。
客を迎え、お茶を出し、会話を楽しむ。
紅茶を飲むことそのものが、家庭における重要な社交の時間になっていったのです。
それにともなって、家具にも変化が起こります。
お茶を楽しむための小型のテーブル、いわゆるティーテーブルが作られるようになりました。
当時のティーテーブルには、天板を持ち上げて立てられるものが多くあります。
なぜでしょうか。
お茶の時間が終われば、そのテーブルをずっと部屋の中央に置いておく必要がなかったからです。天板を立てれば、テーブルを壁際へ寄せることができる。
つまり、必要なときだけテーブルを広げ、使い終われば片付ける。
ティルトトップという仕組みは、こうした生活の変化の中で発達していきました。
「片付ける」だけではなかった
ここで面白いのが、当時の人々が天板を立てた家具を、単純に「収納していた」わけではないということです。
18世紀のティルトトップテーブルの中には、天板を立てた状態で暖炉の前に置き、スクリーンのように使われたものもあります。
暖炉は当時の部屋にとって重要な存在でした。
しかし、火の熱や光が強すぎることもある。
そこで天板を立てる。
すると、それまでテーブルだった家具が、今度は部屋の中の仕切りやスクリーンのような役割を果たす。
これは、現代の感覚からすると少し意外です。
家具を使わないから片付ける。
それだけではない。
家具の姿を変えることで、使っていない時間にも別の役割を与えていたのです。
家具は「使わない時間」まで考えられていた
ティルトトップテーブルを見ていると、当時の家具づくりに対する考え方が少し見えてきます。
テーブルは、食事やお茶をするときだけ必要なもの。
では、それ以外の時間はどうするのか。
天板を立てる。
そうすれば場所を取らない。
そして、その立てた姿そのものも美しい。
18世紀のティルトトップテーブルには、木材の美しさだけでなく、彫刻や象嵌、装飾的な縁取りなど、天板を立てた状態でも楽しめるような意匠を持つものがあります。
つまり、
「使っているときだけ美しい家具」ではなく、「使っていないときにも美しい家具」
として考えられていたとも言えるでしょう。
この感覚は、アンティーク家具を楽しむうえで、かなり重要なところだと思います。
家具は実用品であると同時に、部屋の中に置いて眺めるものでもある。
ティルトトップという機構は、その両方を成立させるための仕組みでもあったのです。
そして、テーブルはもっと自由に使われた
もちろん、ティルトトップテーブルが使われたのは、お茶の時間だけではありません。
ゲームをしたり、読書をしたり、書き物をしたり。
そのとき必要な場所へ移動させて使うことができました。
当時の家具は、現在のように「この部屋にはこの家具」「この家具はこの用途」というように、用途が完全に固定されていたわけではありません。
ひとつの家具が、生活のさまざまな場面に対応していたのです。
ティルトトップテーブルは、その考え方をとても分かりやすく表しています。
使うときにはテーブル。
使わないときには壁際へ。
場合によってはスクリーンにもなる。
家具そのものが、部屋の使い方に合わせて姿を変えるわけです。
そして、こちらは1920年代頃の一台
今回のテーブルは、1920年代頃のもの。
ティルトトップという構造が盛んに使われるようになった18世紀から、すでに100年以上が経った時代の一台です。
18世紀のティルトトップテーブルには、非常に華やかな装飾を施したものも多くあります。
それに対して、この一台はかなりシンプルです。
余計な装飾はほとんどなく、天板と脚部による素直な構成。
だからこそ、木そのものの表情や、長い年月を経た家具ならではの質感が強く感じられます。
100年前の家具を、今の暮らしに
高さは50.5cm。
現代の暮らしでは、サイドテーブルやティーテーブルとして使いやすいサイズです。
ソファの横に置いて、コーヒーや本を置く。
アームチェアのそばに置いて、小さな照明や花器を飾る。
あるいは、天板の上にオブジェを置いて、家具そのものを楽しむ。
そして、必要がなくなれば天板を立てる。
そう考えると、18世紀に生まれたこの仕組みは、現在の暮らしの中でも十分に自然です。
大きなテーブルを常に置いておく必要はない。
けれど、必要なときにはしっかりとした天板が欲しい。
そんな場面に対応しながら、使わないときにも家具として美しい。
ティルトトップテーブルが長い間作り続けられてきたのは、単に便利だったからだけではないのかもしれません。
暮らしの中で役割を変えながら、それでも家具としての美しさを失わない。
この一台を見ていると、そんなイギリス家具の考え方が感じられます。