【家具の読み物】
「オケージョナル」という名前は、何を意味しているのか?
アンティーク家具には、少し変わった名前の家具があります。
そのひとつが「オケージョナルテーブル」です。
直訳すれば「occasion=機会・場合」のテーブル。
つまり、特定の用途だけに使うのではなく、必要なとき、その場面に応じて使うテーブルという意味合いを持っています。
では、なぜイギリスでは、わざわざこうした小さなテーブルが作られたのでしょうか。
大きなテーブルだけでは、暮らせない
現代の感覚では、テーブルというとダイニングテーブルやデスクのように、ある程度決まった場所に置いて使う家具を思い浮かべます。
しかし、昔のイギリスの室内では、もう少し小さなテーブルが活躍していました。
椅子に座って本を読む。ソファでお茶を飲む。暖炉のそばで会話をする。
そんなとき、手元に飲み物や本を置くための小さな台が必要になります。
だからといって、そのたびに大きなテーブルを持ってくるわけにはいかない。
そこで登場するのが、小型で移動しやすいオケージョナルテーブルです。
必要な場所へ持っていく。用が済めば、別の場所へ移す。
名前の通り、そのとき、その場所で必要な役割を与えられる家具だったのです。
小さい家具だからこそ、凝る
面白いのは、こうした実用性の高い小さなテーブルにも、かなり装飾的なものが存在することです。
大きなキャビネットやチェストなら、正面や側面に広い装飾面を取ることができます。
ところが、オケージョナルテーブルはそもそも小さい。
使える面積が限られています。
だからこそ、脚の形や天板の輪郭、縁の装飾など、家具の構造そのものがデザインになっていきます。
今回の一台も、その好例です。
天板にはサーペンタインと呼ばれる緩やかな曲線。
そして脚にはツイスト。
大きな彫刻や象嵌を施さなくても、家具の輪郭と構造だけで十分に表情が生まれています。
サーペンタインという曲線
今回の家具を見るうえで、もうひとつ面白いのが天板の形です。
直線だけで構成された天板ではありません。
中央がわずかに張り出し、左右に曲線がつながっていくサーペンタイン形状になっています。
サーペンタインとは、蛇のように緩やかにうねる曲線を指す言葉。
イギリス家具では、チェストやテーブルなどさまざまな家具の前面や天板に使われてきました。
家具の形に曲線を取り入れることで、直線だけで構成された家具よりも柔らかく、動きのある印象になります。特に小さなテーブルでは、この輪郭の違いが家具全体の印象を大きく左右します。
幅38cmしかない家具でも、天板の形ひとつで、ただの小さな台ではなく、きちんとデザインされた家具に見える。
これもアンティーク家具の面白いところです。
ツイストレッグも、ただの装飾ではない
脚部には、螺旋状のツイスト装飾が施されています。
こうしたツイストレッグは、イギリスの家具では古くから見られる意匠です。
まっすぐな脚に比べると、光が当たったときに明暗が生まれやすく、細身の家具でも立体感が出ます。
今回のテーブルは全体的に細身なので、脚部のツイストが家具の印象をかなり左右しています。
サーペンタインの曲線とツイストレッグ。
どちらも「曲線」を使った意匠ですが、その表現方法は違います。
天板は横方向にゆったりと曲がり、脚は縦方向に螺旋を描く。
この二つが組み合わさることで、小さな家具の中にも動きが生まれています。
そして、こちらは1930年代頃の一台
今回のオケージョナルテーブルは、1930年代頃のもの。
この時代になると、イギリス家具はそれ以前の時代に比べて、装飾を抑えたすっきりとした家具も多く見られるようになります。
そんな中で、この一台は細身のフォルムを持ちながら、サーペンタインの天板とツイストレッグによって、しっかりとクラシカルな雰囲気を残しています。
そして、オークの質感。
サイズは小さいものの、木部にはしっかりとした質量感があります。
小型家具だからといって、軽く簡素な印象にはならない。
むしろ、限られたサイズの中に素材感と装飾性を凝縮しているところが、この家具の魅力です。
「オケージョナル」は、使い方を決めない家具
オケージョナルテーブルという名前には、もうひとつ面白いところがあります。
それは、用途を限定していないことです。
コーヒーテーブルのように「これを置く家具」と決められているわけではない。
ベッドサイドに置けばナイトテーブルのようになる。
椅子の横に置けばサイドテーブルになる。
花器を置けばディスプレイテーブルになる。
玄関に置いて鍵や小物を置いてもいい。
つまり、家具の用途を決めるのは家具そのものではなく、使う人とその場所なのです。
これは、現代の暮らしにもかなり相性のいい考え方ではないでしょうか。
大きな家具を一台置くよりも、小さな家具を必要な場所へ動かしていく。
暮らし方が変われば、家具の役割も変える。
そんな柔軟さを持っているのが、オケージョナルテーブルです。
今回の一台も、38cmという小さなサイズだからこそ、置く場所を決めすぎず、暮らしの中で自由に使うことができます。
小さな家具ですが、サーペンタインの天板、ツイストレッグ、そしてオークの存在感。
細かなところを見ていくと、決して「ただの小さなテーブル」ではありません。
必要なときに役割を変えながら、置いてあるだけでも家具として楽しめる。
そんなところに、オケージョナルテーブルという家具の面白さがあります。