【家具の読み物】
アンティーク家具を見ていると、「これは一体、何のためにこんな形になっているんだろう?」と思うことがあります。
ダヴェンポートデスクも、初めて見ると少し不思議な家具です。
一般的なデスクのように横幅が広いわけではなく、正面から見ると非常にコンパクト。
一方で、側面には引き出しが並び、中央には書き物をするための開閉式のスペースがあります。
現在の感覚からすると、少し特殊な形に見えるかもしれません。
この独特な形には、ダヴェンポートデスクが生まれた背景が深く関係しています。
「ダヴェンポート」という名前の由来
ダヴェンポートデスクの起源については、家具史の中でも興味深い逸話が残っています。
一般的に語られているのは、18世紀末、Captain Davenportという人物が、イギリスの名門家具工房ギロウズ(Gillows of Lancaster)に、このような小型の書き物机を注文したことが始まりだったという説です。
ギロウズの記録には、実際に「Captain Davenport – a desk」という注文が残っているとされています。
そこから、この特徴的な形のデスクが「Davenport」と呼ばれるようになった、と説明されることが多いのです。
さらに有名なのが、この人物が船の中で使うためにこの小さな机を注文した、という話です。
船室の限られたスペースでも使えるように、小型で収納性の高い机が求められた――。
そう考えると、この家具の形には非常に納得がいきます。
ただし、ここには少し注意が必要です。
Captain Davenportが実際に海軍関係者だったのか、また本当に船で使用するために注文したのかについては、確実な記録が残っているわけではありません。
つまり、「船で使うために作られた」という話は、ダヴェンポートデスクを語るうえで非常によく知られた説ではあるものの、家具史上確定した事実とは言い切れないのです。
ギロウズが作った、という話も少し複雑
ダヴェンポートデスクといえばギロウズ。
これは家具好きの間ではよく知られた組み合わせです。
ギロウズは18世紀から19世紀にかけて活躍した、イギリスを代表する家具メーカーのひとつ。特に洗練されたキャビネット家具で知られ、当時の上流階級のために数多くの家具を製作していました。
そしてダヴェンポートデスクも、しばしば「ギロウズが考案した家具」と説明されます。ところが、ここにも面白いところがあります。
現在確認されているギロウズのダヴェンポートに関する最初期の図面は1816年のもので、1816年から1850年までの間に27点の図面が確認されています。
つまり、Captain Davenportの注文が18世紀末だったという話と、現存するギロウズの記録との間には、少し時間的な空白があります。
そのため家具史家の中には、Captain Davenportの逸話そのものを後世に作られた物語ではないかと考える人もいます。
アンティーク家具には、こうした「伝説」と「記録」の境目が意外とたくさんあります。
そして、それもまたアンティーク家具を面白くしている部分ではないでしょうか。
小さいことは、欠点ではなかった
ダヴェンポートデスクの特徴は、何よりそのコンパクトさです。
普通のデスクなら、天板を横に広く取ることで書類や筆記具を並べるスペースを確保します。
ところがダヴェンポートは、横幅を広げる代わりに、家具そのものを縦方向にまとめています。
側面に収納を設け、中央の書き物スペースを必要なときだけ開く。
使わないときには閉じておくことができるため、家具そのものが比較的コンパクトにまとまります。これは単に「小さなデスク」ということではありません。
限られた空間の中に、書く、しまう、閉じるという複数の機能を組み込んだ家具なのです。
ヴィクトリア朝になると、もっと「可愛く」なった
そして19世紀になると、ダヴェンポートデスクはさらに人気を広げていきます。
もともとはコンパクトな実用家具だったこの机は、ヴィクトリア朝になると、彫刻や象嵌、真鍮装飾、凝った脚部など、さまざまな意匠をまとっていきました。同じ「ダヴェンポート」という基本的な形式を保ちながら、実にさまざまな姿のものが作られるようになったのです。
華やかなウォールナットのバール杢を使ったもの。
植物や唐草を思わせる彫刻を施したもの。
象嵌で細かな模様を描いたもの。
脚やブラケットそのものを装飾の主役にしたもの。
中には、収納や開閉機構をさらに複雑にしたものまであります。
小さな家具だからこそ、限られた面積の中に職人たちがさまざまな工夫を凝縮したのでしょう。
そして、そのコンパクトで装飾的な姿と実用性から、ヴィクトリア朝の家庭では女性用の書き物机としても人気を集めました。
大きな書斎机とは違い、場所を取りすぎない。
必要なときには開いて使え、使わないときには閉じておける。
そして、閉じた状態でも美しい。
実用家具でありながら、まるで小さなキャビネットのようでもある。
この「実用性と装飾性の両立」こそ、ダヴェンポートという家具が長く愛された理由なのかもしれません。
そして、こちらは1910年頃の一台
今回のダヴェンポートデスクは、1910年頃のもの。
ダヴェンポートという家具が生まれてから、すでに100年以上が経った時代の一台です。
そのため、初期のダヴェンポートとまったく同じ姿をしているわけではありません。
この個体でまず目を引くのは、前面から側面へと広がるウォールナットのバール杢です。
細かな木の表情が複雑に重なり、光の当たり方によって見え方が変わる。
そこに100年以上の時間を経たウォールナット特有の色合いと、木部に刻まれた時間の痕跡が加わっています。
さらに脚部には、有機的で迫力のある透かし彫りのブラケット。
天部には真鍮製の天飾り。
コンパクトな家具でありながら、かなり強い装飾性を持っています。
特に面白いのは、これだけ装飾的な要素を持ちながら、家具そのものの大きさは非常に控えめなことです。
幅55.5cm。
一般的なデスクと比べれば、かなり小さい。
けれども、正面に立ってみると決して存在感が小さいわけではありません。
むしろ、限られたサイズの中に木材、装飾、収納、書き物の機能を凝縮しているからこそ、独特の存在感が生まれています。
ダヴェンポートという家具が長い間作り続けられた理由も、こうした「小さいけれど、ただ小さいだけではない」というところにあるのかもしれません。
現代の暮らしでは、どう使う?
では、100年以上前のダヴェンポートを、今の暮らしの中でどう使うのか。
もちろん、本来の用途である書き物机として使うのが一番自然です。
ノートを広げたり、手紙を書いたり、ちょっとした作業をしたり。
現在なら、ノートパソコンを置いて小さなワークスペースとして使うこともできます。
ただ、現代の暮らしでは「デスクとして使わなければならない」と考える必要もありません。
閉じた状態では、天板や木部そのものを楽しむ家具として置いてもいい。
花器やオブジェを置けば、コンパクトなディスプレイ家具にもなります。
特にこの一台のように、ウォールナットのバール杢や透かし彫り、真鍮の装飾など、家具そのものに見る楽しさがあるものなら、実用品としてだけではなく、空間の中で眺める対象としても十分に成立します。
100年前の家具を、100年前と同じ使い方でなければならない理由はありません。
むしろ、現代の暮らしの中に置いたときに、その家具が持っている形や素材の魅力をどう生かすか。
それを考えることも、アンティーク家具を暮らしに取り入れる楽しみのひとつなのだと思います。