【家具の読み物】
ジョージアン・スタイルの家具
イギリスのアンティーク家具を見ていると、「ジョージアン・スタイル」という言葉に出会うことがあります。
ジョージアン・スタイルという名前のもとになっているのは、イギリス国王ジョージ1世からジョージ4世までの時代です。
1714年にジョージ1世が即位してから、1830年にジョージ4世が亡くなるまで。
4人の国王にまたがり、およそ116年間続いた長い時代です。
これだけ長い期間ですから、家具のデザインも一様ではありません。
時代が進むにつれて流行や美意識は変化し、家具にもさまざまなデザインが取り入れられていきました。
そのため、「ジョージアン・スタイル」といっても、すべての家具が同じ形をしているわけではありません。
それでも、この時代の家具を見ていくと、繰り返し現れるいくつかの特徴があります。
マホガニーの美しさを生かす
ジョージアン家具を語るうえで、マホガニーはとても重要な存在です。
18世紀のイギリスではマホガニーが家具用材として盛んに使われるようになり、その美しい色合いや木目が家具の魅力の一部となっていきました。
マホガニーは丈夫で加工しやすいだけでなく、磨き上げることで深みのある色艶が生まれます。
そのため、家具を装飾で埋め尽くすのではなく、良質な木材そのものを見せるというつくり方にもよく合いました。
今回のチェストを見ても、それがよく分かります。
天板から引き出しの前面まで、マホガニーの木目が家具全体の表情をつくっています。
特にこの個体は、木目が細かく複雑に現れており、赤みを帯びた飴色の色合いと相まって、非常に豊かな表情を見せてくれます。
豪華さだけではなく、整っていることの美しさ
ジョージアン期の家具を見ていると、単純に「どれだけ豪華に見せるか」という方向だけではなく、均整の取れたプロポーションや、左右対称性、整然とした構成そのものを美しいとする感覚が強くなっていくことに気づきます。
18世紀のイギリスでは、古代ギリシャやローマの建築・美術への関心が高まり、古典主義的な考え方が家具やインテリアにも影響を与えていきました。
そこでは、過剰な装飾よりも、比例や均衡、秩序といったものが重要になります。
もちろん、ジョージアン家具のすべてが質素だったわけではありません。
豪華な彫刻や象嵌、華やかな金具を使った家具も数多く存在します。
ただ、その豪華さも無秩序に装飾を重ねるというより、家具全体の構成の中に整理して取り入れる方向へと発展していきました。
こうした感覚は、当時の家具を見るうえでとても興味深いところです。
端正な箱物家具
ジョージアン家具には、チェストやキャビネット、デスク、ブックケースなどの箱物家具が数多くあります。
こうした家具では、装飾だけでなく、家具そのもののプロポーションの美しさも重要になります。
今回のチェストも、基本となる形は非常にシンプルです。
四角い箱を基本に、4段の引き出しを整然と配置する。
そこに木材の美しさと、金具や脚部の意匠を加えていく。
一見すると単純な構成ですが、こうしたシンプルな家具ほど、木材の質や全体のバランスがよく見えてきます。
丸い金具とブラケット・フィート
今回のチェストを見たときに、もうひとつ目につくのが引き出しの金具です。
丸みを帯びたペンダント型の金具が、4段の引き出しに整然と取り付けられています。
こうした金具は18世紀のイギリス家具でもよく見られるもので、木部だけで構成された家具に小さな装飾性を加えています。
そして足元には、ブラケット・フィート。
箱物家具の下から角張った形で伸びる、比較的控えめな脚です。
カブリオールレッグのような大きな曲線を持つ脚とは違い、家具全体の直線的な構成を崩さず、足元をすっきりとまとめています。
ジョージアンは「ひとつの形」ではない
ここまで見てくると、ジョージアン・スタイルの特徴が少し見えてきます。
ただし、ここで「ジョージアンとは、マホガニーで、直線的で、ブラケット・フィートの家具のこと」と覚えてしまうと、それも正確ではありません。
116年という長い時代の中では、家具のデザインも大きく変化しています。
曲線を多く取り入れた家具もあれば、彫刻を豊富に施した家具もある。
一方で、後期になると古典主義の影響を受けた、より端正で直線的な家具も増えていきます。
つまり、ジョージアン・スタイルにはひとつの決まった形があるわけではなく、長い時代の中で変化していった家具のデザインの流れがあります。
だからこそ、家具を見るときには「ジョージアンだからこう」と決めつけるのではなく、実際の家具にどのような要素が組み合わされているのかを見ることが大切です。
1970年代に受け継がれたジョージアン
そして、今回のチェストの面白いところは、その年代です。
推定年代は1970年代ごろ。
つまり、ジョージアン時代から200年以上も後につくられた家具です。
それでも、この家具にはジョージアン・スタイルと呼べる特徴がしっかりと残っています。
端正な箱型のプロポーション。
美しいマホガニー。
整然と並ぶ4段の引き出し。
クラシカルなペンダント型の金具。
そしてブラケット・フィート。
18世紀の家具そのものではなくても、その時代に生まれた家具のデザインが、後の時代にも受け継がれているわけです。
イギリスでは、過去の家具様式を手本にして後の時代に家具をつくることが珍しくありません。
そのため、アンティーク家具を見ていると、「これはいつ作られた家具なのか」と「どの時代のデザインを取り入れているのか」が一致しないことがあります。
今回の家具もその一例。
1970年代につくられた家具でありながら、18世紀のイギリス家具を思わせる姿をしています。
家具の形には、時間が残っている
家具の様式を知る面白さは、家具に名前を付けられることだけではありません。
なぜこの形なのか。
なぜこの木材なのか。
なぜこの金具なのか。
なぜこの脚なのか。
そうやって細部を見ていくと、一台の家具の中に、それが生まれた時代だけでなく、その家具が手本とした過去のデザインまで見えてくることがあります。
今回のチェストは、とてもシンプルな家具です。
けれど、そのシンプルな形の中には、18世紀のイギリスで発展した家具づくりの考え方が残されています。
そして、それが1970年代という別の時代に、もう一度家具として形になっている。
そう考えて眺めてみると、普段何気なく使うチェストも、少し違ったものに見えてくるのではないでしょうか。