【家具の読み物】
螺旋状の脚から見る、イギリス家具の長い歴史
このサイドテーブルを見て、まず目に入るのは4本の細い脚ではないでしょうか。
まっすぐな脚ではなく、木そのものがねじれたような螺旋状の装飾が施されています。
こうした脚は、英語では Barley Twist(バーリーツイスト) と呼ばれることがあります。名前の通り、大麦の穂をねじったような形に見えることから付いた呼び名です。
一見すると、単に「昔の家具らしい装飾」に見えるかもしれません。
しかし、この形には、イギリス家具の歴史を300年以上にわたって辿ることができる面白さがあります。
木を「削る」のではなく、「回して」形をつくる
こうした立体的な脚を作るうえで重要だったのが、**旋盤(lathe)**という道具です。
木材を回転させながら、刃物を当てて削っていくことで、円柱や球体、複雑な凹凸を持つ部材を効率よく作ることができます。
17世紀の家具製作では、こうした「挽物」の技術が家具の重要な表現手段になっていました。家具職人の世界には、木材を組み上げるjoinerとは別に、旋盤を使って木を加工するturnerという職能も存在していました。
つまり、家具の脚は単に「家具を支えるための棒」ではありません。
職人が木を回転させ、削り、丸みやくびれを与えることで、構造そのものが装飾になっていったのです。
バロックが家具を「動かした」
17世紀後半になると、イギリスの家具には、それまでよりも動きのある立体的な造形が増えていきます。
1660年の王政復古以降、イギリスでは大陸、とりわけフランスなどから新しいデザイン感覚が流入しました。やがてウィリアム&メアリー期には、家具の脚や柱にも大胆な挽物が用いられるようになります。メトロポリタン美術館も、この時代の家具について、細身で縦方向に伸びた形や、旋盤加工された脚が特徴のひとつだったと説明しています。
V&Aの解説でも、17世紀末のバロック家具に見られる椅子の「barley twist」が、この時代の重要な特徴として紹介されています。
ここで面白いのは、家具の装飾が平面的なものから、立体的なものへ変わっていったことです。
木に模様を彫るだけではなく、脚そのものをねじり、膨らませ、細くし、光と影を生み出す。
家具を見る人の視線が、平面だけでなく家具の周囲を動くような造形です。
では、なぜ1930年代の家具にこんな脚があるのか
ここで、このサイドテーブルに戻ってきます。
この家具の推定年代は1930年代。
ところが、その姿には17世紀の家具を思わせる意匠が残っています。
これは決して珍しいことではありません。
イギリスの家具史を面白くしているもののひとつが、過去の様式を何度も引用しながら家具を作ってきたことです。
「新しいデザインだから古いものを捨てる」というよりも、過去の優れた形を研究し、それを別の時代の生活や好みに合わせて再び取り入れる。
そのため、アンティーク家具を見ていると、
「これは何年代の家具なのか」
という問題と、
「この家具は、何年代のデザインを参考にしているのか」
という問題が、必ずしも一致しません。
ここがアンティーク家具の少しややこしく、そして面白いところです。
1930年代に作られた家具であっても、そこには17世紀や18世紀のデザインが引用されていることがあります。
だから、このサイドテーブルの螺旋状の脚を「1930年代のデザイン」とだけ考えてしまうと、少しもったいない。
むしろ、
17世紀に発達した家具の造形が、何百年もの時間を越えて、1930年代の家具の中にもう一度現れている
と考えると、この小さなテーブルの見え方が少し変わってきます。
アンティーク家具は「古いもの」だけではない
アンティーク家具を見ていると、つい「何年前に作られたものか」という年代に目が行きます。
もちろん、それは重要です。
けれども、家具の面白さは年代だけではありません。
その家具がどんな時代の形を受け継ぎ、どんな技術で作られ、なぜその時代にその形が選ばれたのか。
そこまで考えてみると、一脚の椅子や一本の脚にも、長い時間の積み重なりが見えてきます。
このサイドテーブルも、そうした視点で見ると面白い家具です。
細身の脚に施された螺旋状の装飾は、単なる「昔っぽいデザイン」ではありません。
木を回転させながら形を作る職人の技術、17世紀のバロック家具が生み出した立体的な造形、そして過去の様式を繰り返し取り入れてきたイギリス家具の文化。
その長い流れの先に、1930年代のこの一台があります。
天板に現れるオークの木目と、細くねじれた脚。
小さなサイドテーブルですが、眺めているとイギリス家具の歴史が少しだけ凝縮されて見えてくる。
そんなところも、この家具の面白さなのかもしれません。