英国アンティーク・チューダー様式の歴史 — アンティークハウスペルラ コンテンツにスキップ
英国アンティーク・チューダー様式の歴史


こんにちは。
福岡県糸島市で営業中のアンティークハウスぺルラ。
店長の畑です。

今回は歴史のお勉強。

家具にデザインがもたらされるようになった
16世紀ごろの話です。



英国アンティーク家具の原点、
チューダー様式とは?

英国アンティークに関するサイトや
雑誌などを見ると、チューダー様式という言葉を
よく目にしますよね。

でも、実際それがどのようなものなのか、
どのように成立したのか、
詳しくは知らない人も多いのではないでしょうか?

英国アンティークについて語るのに
避けて通れないのがこのチューダー様式です。

なぜならチューダー様式は、
それまで大陸諸国から政治的にも文化的にも
影響を受けてきた英国が、
独自の文化を形成しはじめた時代に
生まれた様式だからです。

この記事ではシックで上品な
チューダー様式がどのようにして誕生したか、
その歴史についてご紹介します。

チューダー様式の歴史:戦乱の中世英国

チューダー様式は16世紀ごろ、
イングランドで生まれた様式です。

チューダー様式の生まれる前に時代には、
英国では戦乱の時代が続いていました。

特にフランスとの間に起きた
百年戦争(1337-1453年)や、
その後のバラ戦争(1455-1485年)では、
貴族の多くはその戦況に合わせ、
土地を獲得したり失ったり、
一所に留まることが困難な時代でした。

そのため、貴族であっても豪華な家具や
調度品を所有するという概念がなく、
戦争が終わって初めて人々は落ち着いて家財を
所有することができる時代を迎えました。


チューダー様式の歴史

戦争の終わりとチューダー朝の始まり

バラ戦争とは英国内貴族の王権を巡る内乱で、
ヨーク家とランカスター家という
二つの貴族の間に起こった戦争です。

ヨーク家は白薔薇を、ランカスター家は赤薔薇を
家紋としていたことからこの名が付きました。

戦争に勝利したランカスター家の
ヘンリー・チューダーがヘンリー7世として
即位した後、ヨーク家のエリザベス・オブ・ヨークと
結婚することで和解し、
チューダー朝は開かれました。

その際に両家の家紋であったバラを
掛け合わせ、赤と白のバラの紋章を新たに作り、
「チューダー・ローズ」
と名付けました。

チューダー朝の家具によく見られる
バラをモチーフにした装飾は
この「チューダー・ローズ」です。


イギリス国教会の設立

続いて王位についたヘンリー8世は、
スペインのキャサリン・オブ・アラゴンと結婚しましたが、
侍女のアン・ブーリンと恋に落ち、離婚を希望しました。

しかし、当時ローマ・カトリックに所属していた英国では、
離婚にはローマ教皇の承認が必要でした。

離婚を却下されたヘンリー8世は、
ローマ・カトリックからの離脱を決意し、
「イギリス国教会」を設立しました。

このことが、それまで芸術・文化面において
フランス、イタリアなどの大陸諸国から
大きな影響を受けていた英国が、
独自の美術様式を形成した大きなきっかけとなりました。


チューダー様式の歴史

チューダー様式のベースとなったのは、
「ゴシック様式」と呼ばれる教会建築の様式でした。

ゴシック様式というのは
12世紀のフランスで登場した美術様式で、
先頭アーチ(尖ったアーチ状の梁構造)、
フライングバットレス、
リブヴォールトなどの特徴があります。

チューダー様式の家具では、
これらのゴシック様式のデザインを
家具の表面に浮き彫りにすることで表現しました。

この時代までの英国では、
家具や調度品を集め豪華な装飾をするという
概念に乏しかったこともあり、
家具自体の形状は比較的シンプルなものでした。

そこにゴシック様式の教会由来のデザインや
「チューダー・ローズ」を彫刻のみで
装飾を加えているため、
家具自体はシックで落ち着いた雰囲気であることが
チューダー様式の特徴です。



チューダー様式の彫刻のデザインに
よく見られる5つのモチーフ


円頭アーチ

円頭アーチとは、
古代ローマ時代に初めて広まった建築様式で、
天井部分が円形になっていることが特徴です。

なぜ家具の彫刻の話で建築様式の話が出てくるかというと、
チューダー様式では建築のデザインを彫る文化があったためです。

円頭アーチ、半円形アーチ、
扇形パターンなどが用いられました。

特にこれらの建築様式は、
古代から残る重要な建築に用いられていたため、
美しいだけでなく「権威を表すもの」
として認識されていたとも考えられます。


ポインテッド・アーチ
(尖頭アーチ)

ポインテッド・アーチ(Pointed arch)とは、
日本語で尖頭アーチとも呼ばれる建築様式の一つです。

古代ローマでは柱の上に
半円型のアーチを載せることで
屋根を築きましたが、
ゴシック様式では半円でなく一番高い部分が
尖った形状のものが主流となりました。

そうすることによって、
横方向にかかる重量が減り、
より壁の薄い建築が可能になったのです。

この上部が尖頭アーチになった
教会建築のデザインを基調とし、
その他の装飾を加えていったのが、
チューダー様式における
「ポインテッド・アーチ」です。


リネン・フォールド

リネン・フォールド(Linen fold)とは、
リネン(麻)を折りたたんだパターンで
作られたデザインのことです。

中世に毛織物で栄えたフランドル地方
(現代のオランダ南部からフランス北部にかけての地域)
で生まれ、北ヨーロッパを中心に広まりました。

当時はlignum undulatum
(ラテン語で「波打つ木」)
と呼ばれていました。

複雑な彫刻技術を必要としないこのデザインは、
平面的なものをシンプルに装飾するための
技術として発展していきました。


チューダー・ローズ

冒頭に記述した通り
チューダー・ローズ(Tudor Rose)は、
チューダー朝の家紋であるバラを
モチーフにしたデザインのことで、
ランカスター家とヨーク家という
二つの貴族の家紋を掛け合わせて作られたものです。

15世紀に起きたバラ戦争と呼ばれる
勢力闘争ののち、両家の婚姻関係によって
戦争が終了したという歴史背景から
このバラのデザインが生まれました。


植物モチーフ

チューダー様式のデザインに
取り入れられていた植物は
チューダー・ローズだけではありません。

アカンサス(Acanthus)とは、
ハアザミという植物の一種で、
古代から建築の装飾として取り入れられていたデザインです。

古代ギリシアではコリント式柱頭という
柱のオーダーとして多く用いられました。

また、カルトゥーシュ(cartouche)と呼ばれる
花枠(古代エジプトの象形文字で国王や神の名を囲む楕円形の枠)や、
ギローシュ(Guilloche)と呼ばれる
輪つなぎ飾りなども彫刻されました。

また、カーネーションやバラなどの
植物のモチーフとともにライオンの頭など、
動物が彫られることもありました。



親しみやすいシンプルな
チューダー様式のデザイン

これらの5つのデザインを主にして
繊細な彫刻でありながら
植物や布など親しみやすいモチーフが
多用されるチューダー様式。

高級感がありながらほっと心が落ち着くような、
不思議な魅力を備えています。



シックな魅力あふれるチューダー様式の家具

いかがでしたか?
チューダー様式の家具の成立までの歴史をご紹介しました。
豪華な家具をたくさん所有する概念がなかったことや、
教会のデザインを取り入れていたことが、
チューダー様式のシックで落ち着いた魅力を
生み出していることがわかります。

そんなチューダー様式のアンティーク家具と共に、
シンプルながらも奥行のある
特別な空間を作ってみてはいかがでしょうか。



PREV
アンティーク家具取り扱いのポイント。 アンティーク家具取り扱いのポイント。
NEXT
イギリスのテーブルに関する用語解説 イギリスのテーブルに関する用語解説